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執筆者の写真まつださえこ

雑談② 海と舟、付き人M

前回からの続きで、舞台のお話。


 

演者の順に化粧、衣装、鬘のお支度が進む楽屋は、淡々と過ぎる時間、呼吸を繋ぐようにして生まれるごく短い談笑、師範から演者への熱心な指導、そんな中で緊張の糸が畳を這うように静かに流れています。



私は相変わらず間の抜けた付き人Mでしたが、その空気感の中でもモソッと居られたのは、知らぬがゆえといいますか。まぁもう悔し恥ずかしがるの、やめやめ。


藤蔭流御宗家と松田先生の御演目は「おせん菊之丞」。

江戸の代表的美人おせんと、当時の名女形瀬川菊之丞との恋を清く描いた作品です。ギリギリまで舞台袖に付きながらも、駆けるようにして席へ着いて舞台を拝見いたしました。


『御宗家は壮大で静観な海、松田先生はその上を漂う美しい舟のようでした。』


そのように申し上げたのは、舞台の感想を求められた御宗家とのお別れの際です。

他の方の舞台を拝見することは状況的に叶いませんでしたが、御宗家と先生の舞台が円熟の極みであったことは比べるに及ばずです。素人の私でも体感するほどでした。後になって、ちょっと大袈裟な表現だったかなとアタフタしたけども、口下手な私が率直な感想を卒のない言葉に変換しようとしたら、きちんとスベって失敗したに決まっている。結局、素直にお伝えして良かったわけです。


海と舟。

我ながら、言い得て妙。

<その舞には、その佇まいには、演者の人生が現れる>


ちなみに。

私の感想を聞いてくださった御宗家。目をまんまるに見開いて、波のように手を動かして踊って見せてくださいました笑。そんな大らかさもやはり、海のようなお方だなと思ったんです。



 

演者の方の中には、私よりもきっと歳若いだろう女性も沢山いらっしゃいました。その中に、美しい裾引きの御衣装で娘役を演じた方。お戻りになった時のお姿は、一瞬すれ違っただけですが忘れられず、です。


その時、隅っこでモソモソッと感涙したのは、よそさんとこの付き人M。


誰がなんと言おうと、どんな感想を持とうと。演じきった若き舞踊家さんご本人が、何がしかの感情を抱きつつ、またその先へと進むだろうことを思うと胸に迫る。挑戦と重圧がその人の人生を豊かにするのだと思えば、私もぬるま湯に浸かって“あんじょう”している場合じゃないと奮う気持ちでした。


<挑戦と反省と修正を繰り返して、人は人になる。>


自分が挑戦するだけでなく、講師としても、着物を通して生徒さまに挑戦の機会を与えて差し上げることのできる人間にならなければと思った瞬間でもありました。





 

雑談③に続く。人知れずおかした私のしょうもない失態を記録します。




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